【疲労科学のリテラシー講座】第2回 「疲労の疫学調査結果」

株式会社FMCC様からご提供頂く、「疲労、ストレス、睡眠、メンタルヘルスなど」の記事をお届けします。 疲労科学の専門家による、様々な知識や研究成果などをご紹介します。

一般地域住民を対象とした疲労の疫学調査

 1979年に総理府が行った「体力・スポーツに関する世論調査」では、対象者のうち61.9%の人が「よく疲れる」もしくは「ときどき疲れる」と答えており、当時から多くの日本人は日常的に疲労感を感じていました。しかしその疲労はおおむね安静や休息により回復する生理的なもので、大半の人は一晩眠れば翌日には疲れがとれると回答していました。

 しかし、1999年厚生省研究班が一般地域住民4,000名を対象に疲労の実態調査を行ったところ、36%が半年以上続く慢性的な疲労を自覚しており、その半数近くが慢性的な疲労のために日常生活や労働に何らかの支障をきたしていることがわかりました。

 したがって、この20数年間において疲労の質が変化し、慢性的な疲労が広がってきているといえます。

 厚生労働省研究班が10年以上の間隔をおいて行った疫学調査(2012年、有効回答数1,130名)でも、39%の人が半年以上続く疲労を自覚していました。疲労を自覚している人の生活状況をみてみると、13.6%の人は日中も疲労のためにしばしば休息を必要とし、5.8%の人は疲労のため学校や会社を月に数日は休む状況に陥っています。したがって、慢性的な疲労は21世紀の社会が取り組むべき、重要な課題の1つとなってきています。

医療機関を受診している患者を対象とした厚生省研究班調査

 2000年、1999年に一般地域住民の疲労疫学調査を実施した同一地区におきまして、プライマリケアを担っている診療所や市民病院を対象に疲労のアンケート調査(対象:外来受診患者2180名、有効回答数1767名(81.1%))を行いました。その結果、半年以上続く慢性的な疲労が45%の患者に認められ、その中で労働や作業能力の低下がみられた患者が43%、労働が困難な状態に陥っている患者が10%認められました。

 そこで、患者の主治医にその病因について尋ねたところ、糖尿病、高血圧、脳血管疾患、癌などの生活習慣病が多くみられましたが、疾病に基づく疲労と診断できたものは39%に過ぎず、「働き過ぎによる過労」が32%で、「原因が明らかでない疲労(原因不明)」が29%もみられることが分かりました。

 体調不良を自覚した場合、医療機関を受診して診察と検査を受ければ、その原因が明らかになり、適切な治療が受けられると考えられがちです。しかし慢性的な疲労に関しては、その大半は医療機関を受診してもその病因がよくわからないのが実情です。したがって、原因の明らかでない慢性疲労はプライマリケアを担っている医療機関においても日常診療の中で対応している疾病の1つとなってきています。

疲労に伴う日本社会における経済損失の算出

 疾病の社会への影響を考えるとき、社会に与える経済損失の比較がしばしば行われています。そこで、一般地域住民における疲労疫学調査結果(厚生省研究班1999年)と通商産業省産業政策局新規産業課で作成された報告書「経済構造改革の効果試算について」(2000年)を用いまして、感覚投入手法の1つであるSuccessive Proportional Additive Numerationにより年齢階層ごとの情報通信、エネルギー、物流、金融、医療、介護育児、環境などに与える影響を算出しました。その結果、慢性的な疲労に基づく経済損失は7646億円、病的な疲労に伴う経済損失は4081億円であり、日本における慢性疲労全体によって引き起こされる経済損失は医療費を除いて年間約1.2兆円にも及ぶことがわかりました。したがって、慢性的な疲労は医学的観点のみならず経済的損失という観点からも大きな社会問題の1つとなってきています。




医師:倉恒弘彦(くらつね・ひろひこ)
プロフィール
大阪市立大学医学部客員教授として、疲労クリニカルセンターにて診療。1955年生まれ。
大阪大学大学院医学系研究科 招へい教授。
日本疲労学会理事。著書に『危ない慢性疲労』(NHK出版)ほか。


記事提供:株式会社FMCC(http://www.fmcc.co.jp/health01.html

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